「優秀な社員だから管理職に抜擢したい」と思っても、すんなり実現しないことがあります。本人に打診したところ「管理職にはなりたくありません」と拒まれた経験をお持ちの経営者もいるのではないでしょうか。実は近年、管理職になりたくない社員が増えているのです。
本記事では、中小企業で人事を30年経験した筆者が「昇進を拒む社員にどう対処したらよいか」を5ステップで解説します。最後まで読むことで、「管理職をやってみたい」と社員に思ってもらうためのヒントがわかります。ぜひ参考にしてください。
管理職になりたくない人は増えている
一般的に、管理職に昇進することは「喜ばしいこと」と思われがちですが、実は「管理職になりたくない」と思っている人は大勢います。厚生労働省の調査によると、61.6%もの人が「管理職に昇進したいとは思わない」と答えているのです。
(参考:厚生労働省|役職に就いていない職員等における管理職への昇進希望等について)
調査結果では半数以上の人が「管理職を敬遠している」との結果が出ていますが、筆者の感覚としては「管理職になりたくない」と思っているのは、上司に良いイメージを持っていない一般社員に多い印象があります。少なくとも、主任やチーフなど「マネジメント」を経験したことのある人は「管理職になりたい」と思っている人が多く、昇進をモチベーションにしているのではないでしょうか。
社員が管理職になりたくない理由BEST3
では、なぜ管理職になりたくないのでしょうか?昇進を希望しない理由は年代や男女によって異なります。しかし、大半の理由は大きく3つです。筆者も実際に以下を理由に拒まれた経験があります。
- 責任が重くなる
- 上司と部下の板挟みになる
- 年収が減る
1. 責任が重くなる
管理職になれば、自分の実績よりもチームや部門の成績が重視され「チーム成績=個人の評価」となります。一般社員は自分の業績を上げれば評価されますが、管理職は部下の業績を気にかけ、指導もしなければなりません。
管理職は担当部署の全ての責任を負うことになるため、所属社員の誰かにミスがあれば対応が必要です。中小企業では、自分もプレイヤーとして業務をしなければならないケースもよくあります。今よりも仕事量が増える上に、責任が大きくなることを嫌がる社員は多いのです。
2. 上司と部下の板挟みになる
管理職は、経営者側の立場を理解しつつ、一般社員の意見も汲み取らなければなりません。つまり、経営者と従業員の仲介役のような存在です。両方の意見をすり合わせるのは難しく、上司と部下の間で板挟みになることは珍しくありません。
「部下とうまくコミュニケーションが取れない」や「上司に自分の意見を聞き入れてもらえない」などは、管理職に多い悩みです。このような上司の姿を見て「管理職にはなりたくない」と思う人もいるでしょう。
3. 年収が減る
管理職は「管理監督者」の立場になることが一般的です。管理監督者は、労働基準法の休日や労働時間の適用外のため、休日手当や残業代が支払われません。つまり、管理職になることで、今まで支払われていた手当がもらえなくなるのです。もらえなくなる残業代が管理職手当を上回っていた場合は、結果的に年収減となってしまいます。
また、一般社員と同じように拘束されるにもかかわらず、残業代だけが支払われない「名ばかり管理職」の問題も後を絶ちません。このようなことから、管理職への昇進を望む人は少なくないのが実態です。
管理職になりたくない社員への対処法5ステップ
企業にとって、管理職は欠かせないポジションで「誰でもいい」というわけではありません。企業も適材だと判断し人選しているので、候補者には管理職になってもらわなければ困りますね。では、管理職になりたくないという社員に対して、どのような対応をすればよいのでしょうか。
筆者の経験も踏まえ、最適な説得方法を紹介します。以下のステップに沿って焦らず数回にわけて対処すれば、必ず納得してくれるのでぜひ参考にしてください。
- STEP1. なぜ管理職になりたくないのかを確認する
- STEP2. 情報量や権限が増え、仕事がしやすくなることを伝える
- STEP3. 部下を育成すれば、自分が楽になることを伝える
- STEP4. 新たなスキルを習得できることを伝える
- STEP5. 先輩管理職から魅力を伝えてもらう
STEP1. なぜ管理職になりたくないのかを確認する
人によって「管理職になりたくない理由」は異なります。一人ひとりに合わせた対応をするためには、まずはその理由を把握する必要があります。たとえば、仕事の負担が増えることを懸念しているのであれば、業務内容を見直して負担を減らしたり、部下をつけたりする対処法が有効です。
また、管理職になると部下に相談しづらく、ひとりで仕事を抱え込んでしまう傾向にあります。そうして精神的な負担が重くなることを懸念する人もいるでしょう。その場合は、管理職同士で定期的に話す機会を設けるなど、いつでも相談や協力ができる環境を整えることが効果的です。
STEP2. 情報量や権限が増え、仕事がしやすくなることを伝える
管理職になれば「経営者側の一員」となるため、一般社員の時には知り得なかった会社の情報も入ってきます。特に中小企業の場合は、将来のビジョンなどは経営幹部しか知らないことは珍しいケースではありません。
また、管理職は決裁権など、重要な権限を付与されることが一般的です。これまでは上司の決済がなければ実行できなかったことも、自分の判断で決断でき、部下を動かすことも可能になります。したがって、「情報量」と「権限」が増え、仕事がしやすくなるのです。
なりたくない理由を聞き出した後に、こうしたことを伝えると「管理職をやってみたい」と興味を持ってもらえるケースはよくあります。
STEP3. 部下を育成すれば、自分が楽になることを伝える
次に部下を育てることの意義を説明しましょう。
管理職になれば部下を持つことになるのが一般的です。管理職になりたくないと思う人の多くは「自分が大変になる」と思っている傾向があります。確かに、プレイヤーとしての業務に加え、管理職としての業務が増えるため、一時的に仕事量は多くなるでしょう。
しかし、部下が育てばプレーヤーとしての自分の仕事を振ることが可能になり、負担が減っていくのです。さらに、部下が成長していけば、その姿を見られることに喜びも感じられます。
実際に筆者が接したある社員は「管理職は大変そう」というイメージだけで敬遠していました。このギャップを埋めるために、丁寧な説明をしたところ「そんなに大変な仕事ではないかもしれない」とポジティブな印象を持ってもらえました。
STEP4. 新たなスキルを習得できることを伝える
さらなる説得材料として、スキル面での管理職の魅力についても説明しましょう。
管理職になると、これまでは習得できなかった新たな能力を獲得できて、ビジネスパーソンとして大きな武器を手にできます。管理職になれば以下のようなスキルが習得可能です。
- 業務遂行能力
- 組織に働きかける力(ヒューマンスキル)
- 課題の本質を見極めるスキル
つまり、管理職になることは新たな能力を身につけるチャンスといえます。身につけておけば社内外で高く評価されるため、仮に転職する際にもアピールポイントになるでしょう。このように「自分を磨くチャンス」と捉えてもらうことも有効です。
STEP5. 先輩管理職から魅力を伝えてもらう
一対一での説得を終えても候補者が納得していない様子のときには、先輩管理職と話す場を作りましょう。
実際に同じ立場の社員から実体験を聞くと、納得しやすくなります。誰しも初めは不安を抱えたまま管理職になります。そのため、先輩に「管理職になりたての頃の体験談」を語ってもらうことは、とても効果的です。
筆者が候補者を説得する際には、先輩管理職との懇親会を必ず開催して、複数の管理職と話す機会を設けていました。毎回感想を聞くようにしていたのですが「実際に先輩管理職の話を聞いてやる気になった」と回答する候補者がほとんどでした。
当事者しかわからないことを「苦労する面も含めて」本音で話してもらうことで、管理職の立場や考え方を知ってもらうよい機会となります。
最後に
管理職が未経験の人は「仕事量が多い」「責任が重くなる」などネガティブなイメージを持つ人も少なくありません。しかし、これは管理職の魅力を知らないからです。実際に経験した人は「やりがい」を強く感じることが多いと、筆者は実感しています。
管理職になれば、これまでよりも裁量権が増え、大事な場面での権限を付与されるのが一般的です。そのため、会社や部門の方向性を決定し、重要な決定を下す機会が増えるでしょう。また、管理職になると組織内での影響力が増すため、一般社員や取引先などに影響を与えます。
責任が増す一方で、仕事がやりやすくなりキャリア形成の機会にもなるでしょう。管理職としてさらにスキルを身につければ、将来的により高いポジションや仕事の幅を広げるチャンスとなるのです。
このような管理職の魅力を伝えることで「管理職になりたくない」から「管理職になってみたい」と気持ちが変化するケースは多くあります。本記事を参考に、管理職の魅力を伝えましょう。
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